愛罪
約三十分かけて祖母の地元へ戻り、瑠海を迎えに来た。
板戸を軽くノックしてから戸を引くと、石畳の玄関にあるはずのピンクのスニーカーがない。
田舎ゆえに鍵を開けて外出するのは不用心に入らないのを知っているため、ふたりの帰宅を待とうと家へあがる。
歩くたび心地よく軋む廊下を進んで居間へくると、目に飛びこんだ光景。
「…そら?どうしたんだい?」
群青の座椅子に座り、趣味の手芸をする祖母の姿だ。
襖を開けた僕に驚いたように顔をあげた祖母のその言葉に、脳裏を駆け抜ける嫌な予感。
「瑠海は?」
僕は、薄く眉を顰めて問う。
妹を迎えにきた人間に『どうしたんだい?』とは祖母もとうとうボケはじめたのか、とは思わなかった。
祖母といない瑠海。
祖母も瑠海も顔を知り、僕の友人とインプットされているならば祖母が瑠海を預けることも不可能ではない、たったひとりの人物がいる――。
「瑠海なら真依ちゃんと一緒に家にいるはずだよ。持たせたカバンの中に瑠海のお気に入りのぬいぐるみを入れててね、一緒に取りにいったらちょうど真依ちゃんがそらを訪ねに来ていたみたいで、瑠海がここでそらを待ってるって言うから預けてきたんだよ」
乱れる僕の心を感じとってか、ほんの少し困惑の色を滲ませながら祖母はそう言った。