愛罪
「あら、そらくん、お帰りでしたか」
階段を降りたところで、母親の部屋から出てきた家政婦の葉月(はづき)さんが僕を見つけて微笑んだ。
四十代半ばの母親と同世代で、細身の体に清潔感溢れる白の割烹着を纏っている。
軽く会釈した僕の手にぶらさがるコンビニの袋を見ると、葉月さんは少し小走りでこちらへ近づいた。
「昼食、お作りしておりましたのに」
「…エビの入ったシチューは食べれないから。それより、母親ってストッキングとか持ってる?」
帰宅するつもりだったのだろう、結んでいた黒髪を解いていた葉月さんは再び髪を纏めながら僕の言葉に訝しげに頷いた。
母親は総合病院で看護師をしている。
家に帰れない日もあるため、知り合いの葉月さんを家政婦として雇ったらしい。
僕の苦手な食べ物を把握していない辺り、母親が僕の情報を彼女に植えつけていないことが窺えた。
「こちらが新品です」
「…ありがと」
オフホワイトの外国製家具で統一された母親の部屋のクローゼットから、葉月さんは慣れた様子で新品のストッキングを取りだした。
理由も話さず受けとるだけ受けとって部屋を出た僕は、果たして彼女の目にどう映っただろう。