愛罪
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「え…?ご存知だったんですか?」
神妙な表情で伝えられたそれに僕が知っていたと返せば、後藤さんは眉根を深く寄せた。
警察署の見慣れた殺風景な個室。
彼が僕を呼び出したのは、他でもない。
真依子の兄が、母親の働く病院で亡くなっていたという新たな事実を伝えるためだった。
無論、僕が知っていたのは彼女の兄が他界しているということだけだったけれど。
「彼女が妹に話したみたいで」
「そう…ですか、妹さんに…」
僕の言葉に、一瞬何かを諦めたように息をついた後藤さん。
妙に気になる反応に僕が小首を傾げると、彼は徐に腕を組んで口を開いた。
「病院内で接触があったかもしれないと思ったのですが……お兄さんが亡くなられたことを妹さんに話したということは、そらくんにそれが伝わることは容易にわかります。それでも話したのは、疑われても何も出て来ない可能性の方が高いからでしょう」
改めて彼が優秀な刑事に見えたのは言うまでもなく、その理論は尤もだった。
母親の働いていた病院で真依子の兄が亡くなったと聞いたときは、彼と同じく接触があった可能性があるんじゃないかとよぎった。
けれど後藤さんの言う通り、もし接触があったとしたらとことん隠すのが人間の性。
わざわざ疑われるような言動を取る人間など、果たして存在するのだろうか。