愛罪
「後藤さんの母親も、自殺したんですか」
――自分と重ねているような、気がした。
僕の無機質な声が、ばらばらと音を立ててタイルの床へ落ちる。
彼は、少年のようにあどけない双眸を瞠目させてフリーズしたようだ。
「図星」
「…そらくん、心理学でも勉強してるんですか?」
薄く笑って眉尻を下げた後藤さんを見る限り、特に触れて欲しくはない話題ではないらしい。
ただの勘が当たっただけだった僕が否定を示すため首を横に振ると、彼は少し感心を見せてふと柔らかく笑った。
「上司には私情を職場に持ち込むなと念を押されているのですが、やはり放っておけなくて…」
情けないですよね、とでも言うように痛々しく笑う彼。
そうだ、彼はいい人なのだ。
初めてその眩しすぎる笑顔を目にしたとき、僕とは正反対の人間だと思った。
けれど、本当は母親を自殺で失った同じ境遇の持ち主だったのだ。
前向きに笑って生きる彼が、数倍眩しく見えた。
僕も祖母も、そして真相を知ったときの瑠海も、そうやって生きられる日が訪れるだろうか。