愛罪
「そこのファミレスよ。だめかしら」
僕の葛藤を見抜いてか、真依子も小首を傾げてこちらを見つめた。
綺麗な猫目が僕を捉えて、笑う。
恐らく僕の脳は、瑠海の笑顔を崩すことを怖れるよりも言い訳を探していた。
笑顔を守れる、絶対的な言い訳を。
「今度にしよう、瑠海」
「どーしてー?」
「もっと早い時間から出かけた方が、たくさん遊べるでしょ」
わかったような口を利いたのは百も承知だけど、こう言う他なかった。
瑠海は些か煮え切らない様子で頬を膨らませたけれど、僕に小さく微笑んで見せた真依子が頭を撫でながら説得すれば素直に頷いてくれた。
僕が思っているよりも急速に、ふたりの距離が縮まっているような気がする。
同性にしかわかり得ない、特別な何かがあるのだろう。
どう足掻いても、真依子が僕を尋ねてくる限り、瑠海との関係は切り離せない。
こうして微妙な距離を保ち、見守ることが僕に出来る唯一の守護だ。
「だったらそら。帰る前に、いいかしら」
残り少ないピースを繋ぎはじめた瑠海を見ていた僕は、真依子にピントを合せて薄く眉根を寄せる。
わかっている。目的はフーガだ。
正直、今はピアノを触れるような心情ではなかったけれど、彼女がそれで帰ってくれるのならと僕は何も言わず小さく頷いた。