愛罪
「寝たのね」
「…昼寝、してなかったから」
規則正しい小さな寝息を立てはじめた瑠海が握るシーツを、そっと直す。
パズルを完成させた瑠海と真依子と僕の部屋にきたのだけれど、無口になった瑠海をベッドへ入れるとすぐに目蓋をくっつけて眠ってしまった。
ベッドに軽く腰かける真依子は、優しい眼差しで瑠海を見つめている。
その姿を横目に、僕はピアノへと近づいた。
静かに蓋をあけて鍵盤から深紅の布を外していると、こちらへ赴いた足音が傍で止まる。
「…お兄さん、亡くなってたんだ」
ピアノに寄り添うよう鍵盤を見つめている真依子を一瞥し、僕は言う。
彼女はその視線をそっと持ちあげ、動揺など微塵も感じさせない瞳で僕を見た。
「ええ、一年前に。……そら、先にフーガを聴かせて。兄のことはそのあと話すわ」
真依子は僕から視線を外して、再びその瞳を鍵盤へ置いた。
一瞬、彼女の小さな顔の筋肉が強張ったような気がしたけれど真意はうやむやなまま、僕はフーガを奏ではじめた。