憑モノ落トシ
「名前がねー、犬飼 猛くん」
犬飼ってるのかなー、でも名前凶暴そう!と、日向君は笑っている。
イヌカイ タケル。
それがさっきの彼の名前らしい。
話していると授業に間に合わなそうだから。
昼休みに、人気の少ない外階段に座って、よくない噂とやらを聞いている。
「なんかね、そいつと喧嘩したりすると、事故ったり怪我したりするらしいよ」
だから彼は『犬神憑き』と影で言われていたりするそうだ。
よく覚えていないけれど、前に日向君が犬神憑きの話をしていた気がする。
聞き流していたから詳細は忘れたけれど、憑かれた人は狐憑きと似た感じだったように思う。
そして彼も日向君と同じく、苗字から呼び名がつけられているらしい。
「仲間じゃない。友達になってきなさいよ」
周りから持たれるイメージが近い者同士、仲良くなれたりしないかな。
なんなら一緒に言って声かけてあげるから。
そう言うと、日向君は顔を歪めた。
「やだー、千代ちゃんが他の男に話しかけるの見たくない!あとなんかアイツやだ!」
何かって何だろう。
具体的に聞こうと口を開くと、ガサガサと草原をかき分けて歩くような音がした。
近くには茂みがあるけれど、その向こうには使われていない倉庫しかない。
だから生徒は滅多に近づかないのだけれど、誰かいるのだろうか?
「ああいう所からさ、ビョッって出てくるもんだよね」
茂みの方向へ目を向けながら日向君が言う。
「何の話?」
「モンスター系のホラー映画とかさぁ!」
本当に、どうしてこの子はそういう物が好きなんだろう。