憑モノ落トシ
「俺にも兄貴がいるんだ。……それで、昔家に兄貴の犬が居た。人と並べるのもどうかと思うけど、その犬の名前も、オスなのに女みたいな名前付けられてたんだ」
犬飼君は、本当に犬を飼っていたらしい。
過去形のようで、今は解らないけれど。
「……けど、居なくなった」
居なくなった頃の事をよく覚えていない。と彼は言う。
「それで今は俺の犬がいるんだ」
そう続ける彼に、私は少し違和感を覚えた。
もっと小さい生き物ならまだしも、犬を子供個人のものと決めて飼うのは普通なのだろうか?
そんな事を考える私に、犬飼君は尋ねた。
「……苗字、ひゃっき?って、言うんだよな?」
私の名字は百鬼と書く。
掲示物か何かで名前を見たのだろう。
印象に残りやすい名字だという自覚はある。
「“なきり”って読むの」
悪い、と彼は謝った。
けれど読み方を間違えられるのはよくある事だから特に気にはしていない。
横で日向君がバーカと小さく呟く。
やっぱりちょっと、いや結構、性格にも問題があったかもしれない。