憑モノ落トシ
「やめなさい」
ニヤニヤとする日向君がそれ以上しでかさないよう止めると、自然と犬飼君も落ち着いた。
日向君は少しむくれているけれど、今日に限っていつもより他人に対する態度が酷い気がする。
機嫌でも悪いんだろうか。
寝不足?
そして少しの沈黙の後、トーンダウンした声で日向君が話す。
「……犬神ってさぁ」
窺うように向けられる言葉は、犬飼君への物だ。
「姿がネズミとかイタチみたいだとか言うけど、犬っぽいの」
犬みたいな気配って言ってたけど、と、尋ねる。
「見れた事は無い。けど、よく似てると思う」
お兄さんの犬や、自分の犬がそばに居る時の感じに似ていると、彼は答えた。
日向君はふーんと、わざとらしく興味を無くしたような適当な声を出した。
「もしそれが本当にお兄ちゃんのワンコだったとしてもさ、
犬神って、首を切り落とした人に憑くんだってね」
だから、違うんじゃない?と、むくれたままの顔でそっぽを向きながら言った。
その後にチラリと私の方を見た。
椿は犬神ではないし、お兄さんもそんな事はしていない。
喧嘩相手が不運に見舞われるのはただの偶然。
そんな事を伝えたいのだろうと思った。
たしなめた所為だろうけれど、日向君も少しは空気を読んで相手を気遣う様になったらしい。
それを最初から使ってくれればいいのだけれど、今でも本当はわくわくしているのが私には解る。
だからきっとそれが出来るようになるのはまだ先の事だろう。