憑モノ落トシ
『あのね、一人であのトイレに居ると、誰かが覗いてくるんだってさ』
昔、いじめられていて閉じ込められ、そのまま自殺した生徒が居る。
それ以来一人でそこのトイレに入ると、自分をいじめた相手じゃないかと見に来て、少しでも似ていると襲われる、という噂。
そんな話をしてきたのは、どこかで噂を聞いてきた日向君だった。
けれど実際、調べてみれば自殺した生徒は存在しない。
すべて誰かの作り出した架空の話だった。
話によっては自殺の方法が異なるし、いじめていたという生徒の特長も変わっている。
作られた話はどんどん変化して広められ、原型をとどめていない。
「ついてきて?」
そんな噂なのに、日向君が怖がるのには理由がある。
「……しょうがないな」
根も葉もなかった噂は、子供たちの力で存在を得た。
大勢に伝わっていくほど、存在は大きくなる。
面白がって幽霊の姿を醜く変えて話していくほど、形は歪になる。
最初には存在さえしていなかったであろう生徒は、今では噂通りにそこに居る。
そう、すべての特長を加えた姿で。