Sales Contract
手に取って、ナフキンで拭うと改めてピンキーリングであることが確認できた。
細めのデザインで、ワンポイントのパールが可愛い。
「勝也くん、やり方がキザすぎるんですけど」
「思いついたらやりたくなっちゃって。ちゃんと見つけてくれてよかった」
先ほどの彼のように、指にはめて眺めてみた。思わず口元がゆるんでしまう。
そんな私とは対照的に急に真面目な顔をして彼が口を開いた。
「安物で申し訳ないし、本当は薬指につけてもらうのを買いたかったんだけど…今の俺にはまだ早いかなと思って。
ただ、ちゃんと伝えたい気持ちがあるし、それが言葉だけじゃない部分でもわかるようにするにはどうすればいいか結構色々考えたんだよね。
だから今日は千絵さんのことを思いながら料理を作ったりプレゼントを選んだりしたんだけど」
いつになく真剣でまっすぐな彼の言葉を聞いていると心臓が高鳴って、口を挟む余裕すらなかった。
「とにかく今この瞬間までを振り返って思うのは、やっぱり自分は千絵さんのこと、母親でもお姉さんでもご主人様でも同居人でもなくて、一人の女性として見てるし…
強いようで実際は弱くて可愛い千絵さんのことがすごく好きだなあって」
「勝也くん…」
好きなんて、あたしなんかに使うにはもったいない言葉だと思った。
けど、それと同時にその言葉に甘えたいと思っている自分もいた。
正直、自分の気持ちと向き合ったら、彼と同じ気持ちであることには薄々気づいていたけど、目をそらしていたかったのも知っていた。
いろんな感情が渦巻いてあたしの思考は停止しかけていた。
それを見て少し彼が慌てる。
「ごめん、勢いに任せて色々言い過ぎちゃったね」
寂しそうな声を聞いたら胸が痛んだ。
「違うの、臆病なだけなんだ。
その言葉を聞けてすごくうれしいのは本当だし、実際あたしだって勝也くんのこともうただの子供だなんて思って見てない。
けど、冷静になると本当にいいのかなって不安になるのも本当のところ」
この子ならわかってくれるだろうと思い、言える範囲で本音を伝えてみた。
私なりの誠実さだとわかってもらえればいいんだけど。
なぜか切なくて柄になく泣きそうになる。