Sales Contract
恥ずかしさが拭えないので、彼の方はろくに見ずに目の前のケーキに手をつけた。
いちごにクリームを絡ませて口へ運ぶ。
さわやかな酸味とクリームの甘さのバランスがちょうどよかった。
「おいしい!勝也くん天才!」
「それはよかった。せっかく作ったからいっぱい食べてね」
母親のようなセリフに思わず笑ってしまった。
「ありがと。勝也くんも食べてね。」
切り分けたケーキを取り皿にとって彼へ差し出すと、お礼の言葉とともに彼が話を始めた。
「ずっと気になってたんだけど、春樹さんとの話聞いてもいい?千絵さんが拗らせた一番の理由ってそこでしょ?」
少し意地悪な笑顔で彼がきいてきた。
「確かにそうだけど改めて拗らせてるって言葉にしなくても…まあいいか」
ごめんと言いながら勝也くんは笑った。
自分語りは苦手な方だけど、今のこの状況なら悪くはないかと思った。
この人なら聞いてくれると思う安心感が心地いいみたいだ。
「自分で一方的に話してもいい?」
「うん、聞かせて」
もう遥か昔のことを思い出して、言葉を丁寧に選びながら口を開いた。