Sales Contract
「千絵さんはめちゃくちゃ緊張しながら何かを待ったことってある?」
落ち着かない様子を気遣ってくれたんだろうか。
勝也くんらしい面白い質問を投げかけられた。
そんなことあっただろうか。
「うーん、何かあったかなあ。
小さい時に初めて留守番した時とか。早くお母さん帰ってこないかなーって」
「なにそれ、可愛いね」
我ながらこんなことしか思い出せない経験の浅さで情けないけど、勝也くんに少し笑ってもらえてよかった。
「あ、あとは…勝也くんと初めて会う時も結構緊張したよ。どんな子が来るんだろう、思ってたのと全然別人が来たらどうしようって」
一年近く前のことを思い出して、懐かしくなった。
ネットで知り合った人と会うこと自体が初めてだったから、相当緊張してたな。
ましてや一緒に暮らすつもりの子だし、自分よりもずっと年下だし。
極力顔には出さないようにしてたけど。
「それは俺も同じ。けど千絵さん緊張してた?全然そんな風に見えなかったけど」
「あんまり隙を見せるのも良くないと思って、ポーカーフェイスは頑張ってたかもね。
実際に会って、かわいい男の子でほっとしたのも大きいけど」
「えー、俺は素敵なお姉さんでずっとドキドキしてたのに」
言葉に出すとさらに拗ねられそうだから、ちょっとふてくされてる彼がかわいいと思ったことは心に留めておいた。
「勝也くんも全然落ち着いてるように見えたけどな」
こんなふうに出会った日のことを笑って話せる日が来るとは思わなかったな。