Sales Contract
「それにしてもほんとに合格してよかったね。渡辺くんと来月から同じ大学に通えるんだね。渡辺くんもここに来るまでにもう何回もよかった〜ってしみじみ言ってたよ」
「それ恥ずかしいから言うのやめてくださいよ!」
村上と渡辺くんのやりとりに思わず微笑んだ。知らないうちに少しだけ2人の距離が近くなっているような気がするのは気のせいだろうか。
「ほんとに予備校も通わずに合格できたのは先輩のおかげ。
あ〜今感謝の気持ちしかないな」
充足感に満たされた声で勝也くんが漏らした。
「いやいや、秋本が頑張ったからだし。けど、もし落ちてたらめちゃくちゃ責任感じてたわ」
「先輩のこと落ち込ませずに済んでよかった」
こんな時でも渡辺くんを思いやる言葉が自然と出るのが勝也くんらしい。
「これからも勝也くんのことよろしくね。
渡辺くんがいるなら安心」
「千絵さん、母親みたいですね」
照れ臭そうに渡辺くんがツッコミを入れた。
恋人になりたいのに、人前では気づいたら保護者の口ぶりになってしまう自分にまた少しだけ悲しくなった。
「けど俺も安心〜」
そんなことを思っているなんて想像もしていないだろう勝也くんが続けた。
「たぶん高校の時の自分のままじゃ大学にすら行けてなかったし、仮に受かってたとしてもろくに友達も作れなかったような気がする。
こうやってお祝いしてくれる人たちが自分の周りにいるんだって、素直に喜べるようになれたことが一番嬉しいな」
知り合うまでの勝也くんがどんな少年だったかは想像がつかなかったけど、恵まれない家庭環境から自立して素直に周りの人に感謝できることができるのはとても大人だと言うのは明白だ。
その考えに至るまでに、少しでもあたしが関われているんなら、こちらにとってもこの上ない幸せだった。
「秋本って真面目に話すと、すごく大人だよね」
「褒められると照れるな〜」
渡辺くんと勝也くんのテンポのいい会話に思わず微笑んだ。