黒猫の願い事
「おまえ、なにをくっつけてるんだ?」

ようやく彼があぜ道に出て来た時、彼の首にひっかかっているのがロザリオだってことがわかった。




「なんだ、おまえ。
今頃クリスチャンになったのかい?」

僕がロザリオをはずそうとすると、アレクは僕の手に噛みついた。
もちろん加減はしているが、どうやらこれは彼にとって大切なものらしい。
昔から、アレクはガラクタを拾う名人だったけど、ロザリオなんて一体どこから…?



「わかった、わかった。
これはおまえのもんなんだな。
取ったりしないよ。
それにしても、おまえは相変わらず自由な生き方してるんだね。
おまえも年なんだから、夜遊びも程々にしときなよ。」

僕はあぜ道の片隅に腰を降ろし、ロザリオを架けたままのアレクを膝の上に載せた。



「僕もおまえみたいに自由に生きたいよ。
都会での暮らしは楽しいけど、大変なこともけっこうあるんだ。
都会っていうのはこっちとは時間の進み方が違ってね。
僕は何度『気が利かない』って言われたことか……」



あぁ、まただ……
僕は小さい頃から、家族には言えない話をずっとアレクに話して来た。
それは大人になってからも同じで、こっちに戻って来るといつもこうしてネガティブな僕が現れて、彼に愚痴ってしまうんだ。
都会の暮らしをエンジョイしてるのも本当、でも、辛い事があるのも本当。
特に仕事と人間関係はなかなかうまくいかない。
そんなことを愚痴れるのは、やっぱり今もアレクだけなんだ。
アレクはいやがりもせず、鬱陶しい愚痴にじっと耳を傾けて、時折、僕の顔を見上げる。
おばあちゃんは、アレクは人間の言葉をわかってるってよく言うけど、その時の表情は本当にそう思える。



「そうか、君も大変なんだな。」



なんて、言いそうな顔付きなんだ。



「本当に、おまえがうらやましいよ。
一度で良いから、僕も猫になって、自由気ままに生きてみたいな。」

心の中のもやもやしたものをさんざん愚痴って、締めにそう言った時……
アレクは、いつものあの顔で僕を見上げた。
そして、いつもとは少し違う奇妙な泣き声を上げたんだ。



「アレク、どうした?
どこか痛いの……」


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