17-甘い君たち-
言葉を発しないまま、翔太は空き教室へと私を連れてきて、ぴしゃりと扉を乱暴に閉めた。
「な、なに、翔太。ビックリするじゃん……」
ドキドキと鳴っている心臓のせいで、うまく話せない。手は、もう離されたっていうのに。
「いや、うざいのに追いかけられて逃げてたら丁度南緒がいたから」
そう言った翔太の顔は無表情で、なにを考えてるのか全然わかんない。
……追いかけられてたんだ。ほんと、流石だなあ。今更ながら、よくこんなにカッコいい幼馴染を持ったものだと自分でも思うよ。
「ふーん……。でも私、美香待たせてるからもう行かなく…」
扉を開こうとした手が止まった。ついでに言いかけた言葉も言えなかった。
翔太が後ろから覆いかぶさるように、私の口を手で押さえたから。
「……ちょっとだけ黙ってて」
どき、って。心臓、壊れちゃうんじゃないかって思った。
翔太の息が耳にかかって、手が唇に触れている。
心臓のドキドキに混ざって、廊下の足音が聞こえてきた。
「翔太、何処にいるのー?」
「さっきまでここら辺にいたのにっ」
バタバタバタッ、と。その声と足音は慌ただしく教室の前を通り過ぎて行った。
……なんだ。
女の子たちに見つかりたくないから、静かにしてろってこと。
なんとなくモヤッとする。だけど、女の子たちの声がしなくなっても背後からどかない翔太に、私の鼓動はうるさいくらいに高鳴っていた。
まるで後ろから抱きしめられているみたいだ。口に当てられた手は、ゆっくりとお腹のあたりまで降ろされて。反対側は、扉に手をついている。
……こんなの、ドキドキしないわけ、ないよ。