優しい男
「ねえねえ、愛子」

「んー?」

 そぅっと近づいてきた同期の女子が耳打ちしてくる。

「私、このまま相原くんと抜けたいの。手伝ってくれない?」

「ぉっ、了解」

「やったあ」

 ほろ酔い加減の同期は、甘い声で喜んだ。わたしに色目使ってもしょうがないのに。
 はてさて、どう手伝ったらいいものか。どう二人っきりにすればいいものか。

 しばし考えても、ちっともいい案が浮かばない。
 もう一人の同期にも助けを請おうと斜め前の席を窺うと、そこにはもう、カップルのように身を寄せ合っている同期二人がいた。

(とっくにあっちは、くっついていたっちゅーわけね)

 肩を竦めると、グラスになみなみ残っていた焼酎を一滴のこらず煽った。
 ここで空気を読まないわけにはいかない。
 そっと机の上に、五千円札を置いた。

 ようは、とっとと帰宅すればいいってわけで。

「トイレいってくるー」

 女子のトイレ、って方便は非常に便利だ。鞄を持っていても違和感はない。

「あ、いってらっしゃーい」

 耳打ちしてきた同期はご機嫌に手をふっていた。
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