ギャップしおりん
「げっ」
思わず本音が出る。
「水谷は俺を見捨てて帰るの?」
「うん、じゃあね」
私は、岡崎の手を振り払って廊下を走り抜ける。
階段を下りようとした瞬間、
「捕まえた」
そう言って岡崎は、私を抱き寄せた。
「離せ!」
「やだ。離したら帰るだろ」
「分かったから離せバカ」
私は岡崎のみぞおちに肘をいれた。
その拍子に、岡崎がよろめいた隙を狙って私は岡崎から離れた。
「水谷ってさ、可愛いって有名だけど性格男っぽいよね」
「だから?私自称、薔薇にうんこだから」
薔薇にうんことは、
私の兄貴たちが
『栞里は可愛い顔してるけど中身は男っぽくて性格がひねくれてるから』
と、言うしょうもない理由で名付けられた私の代名詞的なやつ。
「水谷って面白いね」
「はぁ!?あんた頭大丈夫?」
岡崎 敦史…
ほんとに謎な奴!
「面白いとか初めて言われたんすけど」
私の何処が面白いだっての。
面白さの欠片もないわ。
私は、岡崎の事を鋭い目つきで思いっきり睨んだ。
「何、上目遣いしてんの?」
睨んだ事が裏目に出たようだ。上目遣いとか、するかっての!
岡崎と私の身長差が20cmくらいあるせいなだけ。
「してないから。で、雑用って何するわけ?」
「廃部になった陸上部の部室掃除だって」
「だる…、なんで私がしなきゃなんないわけ。マジありえねー」
「部室の鍵取り行くから先に行ってて」
「ほいほい」
こうなったら一日で雑用なんか終わらせてやる!
下駄箱でローファーに履きかえる。
部活生の集団をくぐり抜けながら、廃部になった部室に向かう。
少し動いただけなのに、僅かな汗が額から滴り落ちる。
鞄からタオルを出し、肩に巻く。