妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「参るって何だよ。女官殿みたいになることか? ていうか、女官殿がどういう状態かなんて、やっぱり全然わからないけど」

 そはや丸が顔を近づけても、やはり呉羽は特に嫌がるでもなく、顔も背けない。
 唇が触れそうになるほど近づいたとき、呉羽が再び、ぼそ、と呟いた。

「でも、お前と離れるのは嫌だ・・・・・・」

 至近距離で、そはや丸は呉羽の目を覗き込んだ。

「・・・・・・それは、俺がいなくなったら、外法師としてやっていけないからだろ」

 そのままの位置で、そはや丸は答える。
 呉羽は目を閉じた。

「そうかもしれない。でも、お前が女官殿のところへ行ってしまうと想像しただけで、この辺りが、何というか・・・・・・ぎゅっと痛くなるんだ。困るっていうより、悲しい」

 言いながら、呉羽は己の胸元を、ぎゅっと握った。
 どくん、と、そはや丸の気が揺らめく。

 そはや丸は、そのまま呉羽の唇に、己の口を押しつけた。
 少しだけ、呉羽は目を開けたが、すぐに閉じる。

 しばらくの間、二人はそのまま動かなかった。
 随分長い間、接吻していたようにも、そう長くなかったようにも思う。
 不意に、ばさばさ、という騒がしい羽音と共に、甲高い声が響いた。

「お姉さん~。具合はどぅお~?」

 烏丸が飛び込んでくる。

「ねっねっ。右丸がねぇ、お餅持ってきてくれたのよぅ・・・・・・て、え?」
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