妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「そはや丸、全然人型にならなかったじゃない。傍にはいたけど、刀のままだったでしょ。お姉さん、寂しかったのよ」

 烏丸の言葉に、そはや丸は僅かに目を見張った。

 言われてみれば、以前に右丸たちが来てから猫又と戦うまで、ずっと己は刀でいた。
 何となく、呉羽と言葉を交わすのを避けたかったのだ。

 あの後すぐに人型になっていたら、多分、さっき呉羽と話したことを、もっと冷静な状況で聞かれただろう。
 呉羽が今のように熱に浮かされ、ぼんやりした状態でなければ、そはや丸の心の奥底を暴かれたかもしれない。
 だから、ずっと人型になるのを避けていたのだ。

「・・・・・・呉羽様までも、大事にしないだなんて・・・・・・」

 ぼそ、と聞こえた声に、はっと我に返ると、右丸が拳を握りしめていた。
 この大人しい少年には珍しく、怒りで身体が震えている。

 右丸は、キッとそはや丸を睨み付けると、懐から出した文らしき書状を、ばしっと投げつけた。

「あなたのような人に、呉羽様を我が物にする権利なんてない!」

 一気に怒りを放出するかのように怒鳴ると、右丸は、踵を返して駆け去った。

「あっ右丸ぅ」

 烏丸が慌ててばさばさと後を追うが、右丸は雪を蹴って走って行ってしまい、烏丸はすぐに諦めて帰ってきた。
 そはや丸は、右丸が投げた文を拾い上げ、ばさ、と開いた。

 流麗な字で、恋の歌が書かれてある。
 ほたるだろう。
 歌の後には、前の非礼を詫びる言葉が綴られている。
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