妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「・・・・・・さすが、ほたるさん。綺麗な字だねぇ」

 烏丸が、文を覗き込んで言う。
 そはや丸は、ふ、と息をつき、床に文を落とした。

「呉羽を我が物にする権利はない・・・・・・か・・・・・・」

 ぼんやりと呟いたそはや丸に、烏丸が怪訝な顔を向ける。

 右丸は結局、また何か誤解しているようだが、内容はどうあれ、この言葉は正しいと言える。
 生きてすらいない妖が、ただのヒトを我が物にするなど。

 そはや丸は、己の身体を見つめた。
 人型は取っていても、この姿は仮初めだ。
 体温もなければ、血も流れていない。
 この身を切り裂いたところで、痛みも感じなければ死にもしないのだ。

「そはや丸はさぁ、一体どれだけの刻を生きてきたの?」

 不意に烏丸が、そはや丸に問うた。
 そはや丸は己の膝の上で、じっと見上げる烏丸を見る。

「昔っから、主の元では人型だったの?」

「・・・・・・いいや」

 烏丸との話に救いを求めるように、そはや丸は沈みそうになる心を閉じ、思考を昔に向けた。

「ずっと俺は刀だった。意識が出来たのは、いつだったかな・・・・・・。昔はとにかくむしゃくしゃしてたから、目に付くモノを、ただぶった斬ってた。俺を手にした人間を初めとして、ありとあらゆるモノを。そんな俺を抑え込んだのが、大将軍だ」
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