妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
 そはや丸は、よく呉羽の髪を梳いてやる。
 わざわざいつも髪を梳くのは、呉羽に触れたかったからだ。

 刀としてではなく、己から。
 ヒトと変わりなく、自然に呉羽に触れたかった。

 初めは言葉を交わすだけでも楽しかった。
 接するうちに、どんどん近づきたくなる。
 近づくと、触れたくなる。

 そういう感情が芽生えるにつれ、同時に不安も大きくなった。
 いつか、呉羽が他の男を見るようになったら。

 いつかは必ず、呉羽は己の前から去っていく。
 ヒトの命は短いのだ。
 ただでさえ短い時の全てが、己だけに向かなくなるときが来るかもしれない。

「弱くなったもんだ・・・・・・」

 ぽつりと、そはや丸が呟いた。

「こんな気持ち、今まで感じたことはなかった。人型になった故か? いや・・・・・・」

 気持ちが先にあったのだ。
 同じような生き物として接したかった。

 取り憑いた時点で呉羽が耐えられなければ食っていたと言った言葉に嘘はないが、そはや丸だって、ただの刀ではない。
 己の妖気に耐えられるかどうかぐらい、大体わかる。

 幼い呉羽にそれだけの力を見たときは驚いたが、それに対する対抗意識にも似た思いで、呉羽に取り憑いたのだ。
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