妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
 だが。
 そはや丸は、呉羽を抱きしめ返した。
 呉羽がこうして躊躇いなくくっついてくるのは、そはや丸にだけだ。

 そはや丸の口角が、僅かに上がる。
 ないはずの心が、暖かくなる。
 そはや丸は、腕の中の呉羽を、力いっぱい抱きしめた。

「痛たっ・・・・・・。そ、そはや丸、傷が痛い」

 強く抱きしめられて、呉羽が慌てて身を捩った。
 そはや丸は、わざとぶっきらぼうに呉羽から身体を離すと、片手で呉羽の身体をうつ伏せに支え、もう片方の手で、さっと衣を脱がせた。

「全く、酷い傷を負ったもんだな。ふん、しばらくは俺様の言うなりにならないと駄目だな」

 背の傷の手当てをしながら、そはや丸がいつものように、偉そうに言う。

「き、傷なんて治りかけてた。お前が容赦なく締め付けるからだろっ」

「くっついてきたのは、お前だろう。そんな生意気なこと言っていいのか? まだ動き回るのは辛かろうに」

 けけけっと意地悪く笑うそはや丸は、すっかりいつものそはや丸だ。
 そはや丸の膝の上に押さえつけられている呉羽は、うぐぐ、と悔しそうに歯噛みした。

 そはや丸の言うとおり、まだあまり自由には動けない。
 そはや丸の世話になる部分が大きい。
 呉羽は大人しく、そはや丸の膝の上で、背中に感じる痛みに耐えた。
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