妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「なぁ、そはや丸」

 傷を拭いたり薬を付けたりするときは、ぴりぴりとした痛みが走るが、そはや丸の手は優しい。
 不思議な感覚を感じつつ、呉羽は口を開いた。

「女官殿とか、どうするんだ?」

「・・・・・・放っておけばいい。そもそもあんな女官、そうそうこんなところまで来ないだろうさ。男の通いが途切れることなんて、珍しいことじゃない」

 事も無げにそはや丸は言うが、呉羽は、う~むと考え込む。

「そうかなぁ。女子の妄執ほど、凄まじいものはないぞ。憑き物落としで一番多いのは、女子の妄執じゃないか」

 ぴた、とそはや丸の手が止まる。
 呉羽は職業柄、そういったヒトの負の部分ばかり見ている。
 故に、妙な知識は豊富なのだ。

「来ないお前を恨むあまり、鬼になるかも」

「だったら躊躇いなく斬れるから、いいじゃないか」

 しれっと言うそはや丸は、自身も妖だからか、そういう脅しは全く効かない。
 というより、そはや丸に『何かを大事にする』という心はないのだ。
 少なくとも、今までは。

 故に、例えほたるがヒトのままでも、必要とあれば、そはや丸は彼女を斬ることに躊躇いなどない。

 現に、猫又を取り出すときも、呉羽が気を失った直後、そはや丸は、猫又を器---つまり娘ごと滅しようとした。
 呉羽に危険が及びそうだったからだ。

「俺は、お前に危害を及ぼすものには、容赦せん」
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