妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「おや、どうした?」

 壁の飾り棚に向かっていた呉羽が振り向いた。
 その表情に、どきりとする。

「あっ・・・・・・。お、お久しぶりでございます。あの、あ、そうだ。お怪我のほうは、もう良いのでしょうか」

「うん? ああ、もうすっかり。ああ、そういえば、前にも一度来てくれたんだってな。気づかずにすまん」

「い、いえ。大分お加減が悪そうでしたので」

「ちょっと怪我してな。でも、そはや丸が看病してくれたし、もう平気」

 明るく笑う呉羽に、右丸は胸が痛む。
 促されて円座に座り、右丸は懐から一通の書状を取り出した。
 呉羽に差し出す。

 呉羽は書状を開いて、ちょっと驚いた顔をした。
 筆跡は間違いなくほたるのものだが、かなり乱れている。
 所々にある、以前見た流麗な文字がなければ、気づかないかもしれない。

「これは・・・・・・?」

「ほたる様は、あれ以来鬱々としてしまって。初めは塞ぎ込むぐらいで、お勤めなどにも支障はなかったのですが、このところはもう、恐ろしいほど気を乱されて」

 沈痛な面持ちで言う右丸は、膝の上の拳を握りしめた。

「想いを口に出したことで、はっきりと認めたのでしょう。今まではやはり、その・・・・・・身分などのこともありますし、自身の気位もあります故、どこか冷静でいられたのでしょうけど、はっきりと自身でそはや丸殿への気持ちをお認めになられた。それが、ほたる様より冷静さを奪ったのです」
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