妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「まるで何かに取り憑かれているようで・・・・・・。生き霊になりかねない、と言いましたが、もうほたる様の魂は、どこぞに行ってしまっているのかと思うほどで」

「・・・・・・そうか・・・・・・」

 呉羽は渋い顔で考え込んだ。
 文の筆跡は、あり得ないほど乱れていたが、それでも『ほたるの字』はあった。
 完全に何かに乗っ取られているわけではないだろう。
 弱くなった心に、魍魎が取り憑いたのかもしれない。

「わかった。一度会ったほうがいいかもしれない。そもそも事の発端は、私に責任があるのだし」

「本当ですか?」

 振り向いた右丸の表情が、少し明るくなった。
 が、すぐに不安そうな顔になる。

「あ・・・・・・でも。礼金というものが・・・・・・」

「ん~・・・・・・。まぁいい。そはや丸を女官殿に会わせてしまったのは、私だし」

 それより、と、呉羽はきょろ、と周りを見渡した。

「お前、一人のようだな。私を連れ帰ったところで、左大臣家に入れるか?」

 呉羽のような官位もない地下人が、おいそれと左大臣家の門をくぐることなどできない。
 右丸だって、左大臣家に仕えているとはいえ、単なる牛飼い童だ。
 権力などない。
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