妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
 呉羽は一度、烏丸に向かって、そっと指を口の前で立て、それから顔を上げて右丸を見た。

「久しぶりだな。どうしたんだ?」

「あっ・・・・・・え、えっと。あの、その。お、お礼を言いに・・・・・・」

 途端に真っ赤になって、右丸はもごもごと言う。

「礼?」

 首を捻る呉羽に、右丸は、がばっと頭を下げた。
 あまりに勢いがつきすぎて、抱いている烏丸が転がり落ちそうになる。

「わ、私を助けるために、お骨折り頂いて、ありがとうございますっ」

 ん? と相変わらず首を捻っていた呉羽は、ああ、と思い出したように手を打った。

「礼には及ばんよ。いや、烏丸が必死で助けを求めるもんだからさ、可哀相で。でもとにかく、烏丸が無事で良かった」

 あはは、と笑う呉羽に、右丸の目は胡乱になる。
 何だか何気に先のそはや丸と似たようなことを言われたような。
 少し離れたところでは、そはや丸が小さく肩を震わせている。

「でもま、お前も無事で良かった。烏丸もお前に会いたがっていたし」

 右丸の胸にいる烏丸の頭を撫で、呉羽が言ったことに、右丸は少し救われた。

「それだけのために、わざわざ来たのか。烏丸をやろうかと思ってたんだけど、丁度良かった」

 言いながら呉羽は、ふと自分を見る女官に気づいた。
 何となく棘のある目で呉羽を見た後、女官は、顔の前で開いたあこめ扇を小さく振って、再び高飛車に口を開いた。
< 14 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop