妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「あのぅ。ほたる殿は、一体どうなさったのです? 病であれば、薬師のほうが・・・・・・」

 あまりに何の動きもないことに痺れを切らし、呉羽は女官に言ってみた。
 が、女官はふるふると首を振る。
 そして、呉羽にぺこりと頭を下げた。

「わたくしは鈴虫と言います。ほたるさんとは一緒に多子(まさるこ)様にお仕えしていた仲で。今の局も一緒なのですけど、今回はこのようなことになり、ほたるさんはこちらに籠められ、人も遠ざけられております」

「見たところ、そうおかしくもないようですが」

「今は落ち着いておられますが。何か、ぶつぶつと言っておりますでしょ」

 言われて耳を澄ませば、微かに声が聞こえる。
 だが何を言っているのかまではわからないし、このままでは埒があかない。
 呉羽は腰を浮かせて、几帳に手をかけた。

「ちょっと、ご本人にお話を聞いてみていいでしょうか」

「え、ええ・・・・・・。そうですわね」

 鈴虫が、几帳をずらそうと手を伸ばした途端、奥から扇が飛んできた。
 額を打たれ、仰け反った鈴虫を、呉羽が後ろから抱き留める。
 そして、素早く片膝立ちで前に出た。

『うううう』

 人の声とも思えない呻きを上げ、ほたるが睨んでいる。
 その形相に、右丸は悲鳴を上げた。
< 141 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop