妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「ほっほたる様ぁっ! な、何ということに!!」

 思わず駆け寄ろうとした右丸の足を、呉羽は素早く払った。
 ずでん、と右丸が横倒しに転がる。

「馬鹿っ。不用意に近づくな!」

「く、呉羽様・・・・・・」

 思わぬ呉羽の足技に呆気に取られ、右丸は固まった。
 呉羽の視線の先で、ほたるは真っ直ぐに、こちらに顔を向けた。

 呉羽の眉間に皺が寄る。
 妖気は強くなっている。
 先程の呻き声といい、何か憑いているのは間違いないようだ。

 が、今目の前のほたるは、見てくれこそ肉は削げ落ち、口元からは牙が覗く異形と化しているが、その瞳は、爛々とした輝きとは裏腹に、不安げに揺らめいている。

『こいつは・・・・・・』

 ぼそ、と呉羽の手の中のそはや丸が呟いた。
 その声に、ほたるは、ぴくりと反応した。

「ああっそはや丸殿っ・・・・・・!」

 姿を捜すように、空(くう)に手を伸ばす。
 呉羽は戸惑った。
 今の声は、ほたるのものだ。
 そはや丸の声に反応したのは、ほたる自身だろう。

 だが刀の状態のそはや丸の声が、只人(ただびと)に聞こえるわけはないのだ。
 現に、右丸はほたるの行動が理解できず、ただぽかんと口を開けている。
 そはや丸の声が聞こえるということは、やはり身の内に妖がいるということだ。
< 142 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop