妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「主ではなく、呉羽様以外は、どうでもいいのでしょう!」

 ほたるが叫ぶ。

「そはや丸殿! あなた様のお心におられるのは、呉羽様ただお一人! なら何故戯れにでも、わたくしに甘い言葉を囁いたのです。わたくしを、その辺の遊び女(め)と思うてか!」

 宙に向かって叫ぶほたるは、姿形は何らおかしいところはないのに、妖憑きの者よりも、どこか恐ろしい。
 呉羽は気圧され、初めて恐怖を覚えた。
 ヒトの念というのは、こうも強いものか。
 ここまで強い想いというのを、呉羽は見たことがなかった。

 先程まで前面に出ていた妖は、ほたるに抑えつけられたのか。
 この激しさからいうと、妖を取り込んだのかもしれない。
 結構強い邪悪な気だったが、それを只のヒトであるほたるが抑え込むなど、よほどのことだ。
 ほたるの気が、妖の気を上回ったのか。

「このままではやばい。女官殿の負の気と、完全に同化してしまう」

 そうなると、ほたるはもはや物の怪だ。
 ヒトでなくなってしまう。
 俗に言う、妄執で鬼になる、というやつだ。

『いっそのこと、そうなったほうが、退治しやすいんじゃないか』

 そはや丸は言うが、呉羽は胸に手を当てて俯いた。
 完全に物の怪になってしまえば、もうヒトに戻すことは出来ないので、ほたる自体を斬るしかない。
 確かに退治するのであれば、そのほうが簡単だ。

 だが。
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