妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「女官殿は、そはや丸を想う故に、苦しんでいるのだろ」

 ほたるの呉羽に対する思いは、殺気にも似た嫉妬だ。
 今はその憎しみが全開になっているが、おそらくほたるの性格上、そのような気持ちを大っぴらにするのは、はしたないという葛藤もあったのだろう。

 気持ちを抑えきれずに蓮台野の屋敷まで来たものの、そはや丸の目は呉羽に向いているということに気づいただけに終わった。
 あのときに、悔しさの余り己の気持ちを伝えてしまったお陰で、よりそはや丸への気持ちが強くなってしまったのかもしれない。

 何らかの反応を、そはや丸に期待して待ち続けた結果がこれだ。
 文の返事が来ることを期待し、呉羽に嫉妬し、でも左大臣家に仕える己が、外法師ごときにあからさまに嫉妬することは自尊心が許さず、それでもやはりそはや丸に会いたい気持ちは募る。
 気位の高さと嫉妬と恋心に心を引き裂かれた結果なのだ。

「・・・・・・苦しかったと・・・・・・思う」

 気位の高さも、恋するが故の嫉妬というのも、呉羽にはよくわからない。
 だが、蓮台野に来たほたるを見る限り、想像はできるのだ。

 己ですら、そはや丸がほたるの元へと去ることを想像すると、胸が痛む。
 そはや丸に恋慕の情を抱いているかもよくわからない呉羽ですらそうなのだから、燃えるようにそはや丸を想うほたるなど、呉羽の想像を絶する苦しみだったのではないか。

『どうだかな。高級女官なんざ、男のあしらいぐらい慣れたもんだぜ。色恋一つで毎回こんなに騒いでちゃ、男の通いもなくならぁな』

 けけけっと馬鹿にしたように、そはや丸は笑う。
 途端にほたるは、呉羽を射るような目で睨み付けた。
< 146 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop