妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「呉羽様は、そはや丸の主として、責任を取ると言いましたね。なら、責任を取っていただきましょう!」

 言うなり、ほたるは地を蹴った。
 はっと我に返り、危うく身体を捻って避けたが、衣の袖が裂けた。
 ほたるはいつの間にか、懐剣を構えている。

「あ、妖は、どこに行ったんだ?」

 珍しく、呉羽が狼狽える。
 攻撃も見てくれも、ヒトのそれだ。
 女官にしては動きが素早いかもしれないが、それとて妖のように空中を縦横無尽に駆け回るわけでもない。

『この女の負の気を、増幅させてるんだろうよ。負の気に支配されてるのは、間違いないしな』

 むしろ負の気は、さっきよりも断然強い、と呟くそはや丸に、呉羽は再び懐から護符を引き抜き、ほたるに放った。
 護符はほたるの頬を打ち、彼女の動きが止まる。

『呉羽! 抜け!』

 ぶわ、とそはや丸の妖気が強くなり、呉羽の手の中で刀が震えた。
 が、呉羽はそはや丸を抜かない。

『何やってんだ! こいつの負の気は、もうヒトのそれじゃないぞ! 護符で何とか出来ると思うな!』

 そはや丸が叫びながら、自ら鞘から出ようともがく。
 それを呉羽は、必死で抑え込んだ。
 少し後ろでおろおろと見守る右丸や鈴虫には、激しく鍔鳴りする不気味な刀を、呉羽が必死で押さえているように見えるだろう。
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