妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
 迷う呉羽に、ほたるは懐剣を振りかざして襲いかかった。
 避けながら、呉羽は護符をほたるの周りに投げていく。

「呉羽様っ」

 右丸が助太刀しようとするが、彼も別に、武に長けているわけではない。
 返って邪魔になるぐらいだ。

「右丸、私のことより、その女官殿をお守りしてくれ」

 呉羽は腰を抜かしている鈴虫を示して言った。
 そはや丸の声が聞こえない右丸は、いまいち何が起こっているのかわからないが、とりあえず刃物を振り回すほたるは危険だということはわかる。
 頷き、右丸は鈴虫を引っ張って、部屋の隅へと避難した。

 呉羽は術に必要な最後の護符を、呪と共に放った。
 ぴし、と淡い光の筋が、ほたるを縛る。

「・・・・・・くっ・・・・・・」

 懐剣を握りしめたまま、ほたるは身を捩った。
 躊躇っている猶予はない。
 何とかなるだろう、と腹を括り、呉羽は結界に縛られたほたるから、邪気を吸い出そうと近づいた。

 思いきり妖が取り憑いているのなら、妖気を用いて引き出さねばならないが、おそらく今は、ほたるの負の気が大きいはずだ。
 元々ヒトの怨念が猫に宿り、猫又になったものだ。
 猫又は退治した。
 
 残っているのは元の、ヒトの作り出した邪気である。
 それであれば、妖気がなくとも何とかなる。

---ヒトの気だけに、吸い取った後、私が無事でいられるかはわからんが。もし私がおかしくなっても、そのときはそはや丸が、私を斬るなりしてくれるだろう---
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