妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「せ、折角止めましたのに・・・・・・。あなた様が近づくと、今度こそ刺し殺してしまいかねません」

 左の手の甲から懐剣の切っ先を覗かせたまま、ほたるは己の右手を押さえ込む。
 ぼたぼたと、血が辺りを汚した。

 呉羽は懐から、残っている数枚の護符を取り出した。
 何枚かは、血で汚れている。
 それに、そはや丸が眉を顰めた。

 ばさばさと汚れた護符を落とし、汚れていない一枚を、ほたるの右手に叩き付ける。
 ほたるの右手を操っている邪気を護符で祓うと、呉羽はほたるの両腕を掴んで、左手を貫通している懐剣を引き抜こうとした。
 が、力を入れた途端、呉羽は胸の辺りを押さえて身体を折った。

「やっぱりお前、刺されたな」

 そはや丸が呉羽を後ろから支え、覗き込んだ。
 ほたるの手からの出血が、呉羽の胸を染めたにしては、量が多すぎると思ったのだ。

 懐剣はほたるの左手を貫通し、切っ先を一寸ほど突き出している。
 その部分が、呉羽の胸を刺したのだ。

「大丈夫だよ。女官殿が止めてくれたお陰で、そう深くは刺さってない」

 それよりも、と、呉羽はほたるを見た。

「今のうちに、手の傷の手当てを」

 呉羽の言葉に、そはや丸は、ちらりとほたるを見た。
 が、動かない。

 そはや丸にとっては、ほたるの怪我より呉羽の怪我のほうが大事だ。
 ましてほたるは、呉羽を傷つけた。
 そのような女子、そはや丸にとっては敵でしかない。
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