妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
 そはや丸が動かないので、呉羽は再度、ほたるの手首を掴むと、胸の痛みを堪えて両手を引き離した。
 すぐに己の袖を裂き、ほたるの左手をきつく縛る。

「ううううっ」

 ほたるが懐剣を投げ出して、頭を抱える。
 そして、いきなり呉羽を突き飛ばした。

「く、呉羽様、わたくしに近づかないでっ・・・・・・」

 苦しげに言う。

「あなた様が近づくと、どうしても害したい気持ちが湧き上がって、抑えられなくなります。ま、まして、そはや丸が・・・・・・。そはや丸殿が、そのように・・・・・・」

 倒れ込んだ呉羽を睨みながら言うほたるの目から、涙がぼろぼろとこぼれた。
 呉羽を守るように控えるそはや丸の姿が、ほたるの嫉妬心を掻き立てる。
 それに伴い、ほたるの中の負の感情が、むくむくと頭をもたげるのだ。

 ほたるに取り憑いた邪気は、そういう感情を餌に、再びほたるを蝕み出す。
 ゆらりと、ほたるの影が不気味に揺れた。

『うう・・・・・・。この外法師め。一度ならず二度までも、器を壊しおって・・・・・・』

 ほたるの声が、妙に響く。
 ヒトの声とは思えない。

 はっと見ると、ほたるの顔が変化している。
 目が吊り上がり、口からは鋭い牙が覗く。
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