妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「やばい。早く女官殿を救わないと」

 呉羽が立ち上がろうとし、よろめいた。
 刺された胸の傷から、血が溢れている。

 致命傷には至らなかったが、何ともないような浅い傷でもないのだ。
 呉羽の胸から流れる血に、ほたるは、にぃっと口角を上げた。

『ほほほ。美味そうな血じゃ。その身、引き裂いてくれよう。恋しい男を取られた恨み、その身で思い知るがいい』

 まるで血に狂った獣のように、ほたるの目は異様な輝きを帯びる。
 猫又になる前から、そもそもこれは、女子の恋の怨念が凝り固まったものだ。
 そはや丸への気持ちに支配されているほたるは、格好の餌食と言える。

「・・・・・・くそ。護符は血で汚れてしまったし、あそこまでなってしまったら、私が吸い出せるものかも、もうわからん。でも仕方ない。そはや丸、私が失敗したら、後はお前が何とかしてくれ」

 今はまだ、呉羽が放った小さな結界がほたるを縛っている。
 そうもたないだろうが、今を逃すと、もう呉羽の手には負えない。
 胸の傷を押さえ、呉羽は立ち上がろうとした。

「・・・・・・妖気も混じってきたな。お前にゃ荷が重いだろ。何の対策もしてないし」

 呉羽の肩を押さえ、そはや丸が呟く。
 そして、呉羽を押しのけて前に出た。
 目の前に立ったそはや丸に、ほたるが動揺する。

『「そ、そはや丸・・・・・・」』

 何の力もないほたるが、己を支配する邪気より前に出ようとしている。
 それだけほたるの気持ちは強いのだ。

 だがそはや丸には、そのようなヒトの心などわからないし、ほたる個人に対しても、何の感情も持ち合わせていない。
 躊躇なく斬りつけそうで、呉羽は青くなった。
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