妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「そはや丸っ・・・・・・。やめろ、斬るな!」

 呉羽の叫びを背中に聞きつつ、そはや丸はほたるをじっと見た。
 そはや丸が目の前に立ったことで、ほたる自身が戻ったようだ。
 先程の禍々しさはナリを潜め、縋るような目で、一心にそはや丸を見つめている。

「何の力もない女の、単なる負の気なんて、俺にとっちゃ弱いから、直で吸い取ったら、どうなるかは知らん。でも呉羽にやらせるわけにもいかん。・・・・・・俺はお前よりも、呉羽のほうが大事だからな」

 そう言うと、そはや丸はほたるの胸倉を掴み、唇を重ねた。
 ほたるが目を見開く。

 後ろで、呉羽も胸をぎゅうっと押さえた。
 この痛みは、傷の痛みではない。

 不意に、ほたるががくりと膝を折った。
 そはや丸が手を離すと、人形のようにその場に倒れる。

 そはや丸は、乱暴に手の甲で己の口を拭うと、蹲っている呉羽を抱き上げた。
 そのまま出て行こうとするそはや丸に、入り口近くで呆けていた右丸が、慌てたように声をかけた。

「あ、あのっ。ほ、ほたる様は? どうしたのです。憑き物は、取れたのですか?」

 その声に、そはや丸の腕の中の呉羽も、はた、と我に返る。

「そ、そうだ。お前が直接吸い出したということは・・・・・・。まぁ、妖気も邪気もお前に吸収されただろうが」

 言いながら、呉羽は懐を探った。
 が、もうすでに懐の中は血みどろで、手が汚れただけだった。
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