妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「おいこら。手ぶらで来るんじゃねぇ。まさかとは思うが、お前またただ働きさせる気じゃないだろうな? 今回は呉羽が怪我負ったんだ。ちんけな礼で済むと思うなよ」

 鋭い目で睨まれ、右丸は固まった。
 ようやく気を取り直した鈴虫が、慌てたように簀の子に出てくる。

「あの、ありがとうございました。あのぅ、ほたるさんは、本当に、もう・・・・・・?」

 そはや丸の足元に手を付いて頭を下げ、鈴虫は、おずおずと呉羽を見上げる。
 呉羽はちょっと考え、そはや丸に命じて、己を下ろさせた。
 そして、鈴虫の前に座り、同じように手を付く。

「ええ。弱った気に取り憑いた邪気は祓いました。あとは彼女のお気持ち次第、といったところですが、妖しいものは取り去ったので大丈夫でしょう。ただ体力を消耗していると思いますので、何日間かはゆっくりと養生することを勧めますが」

 前の受領に対しては、怪我もかなり深かったし、そはや丸に抱かれたままの挨拶で済ませたが、今は女官相手とはいえ、上司は左大臣だ。
 この屋敷内では、礼儀はきっちり守ったほうがいい。

 手を付いて説明する呉羽に、鈴虫は、ああ、と安堵の声を漏らした。

「ありがとうございます。これで皆、安心します。あの、外法師様もお怪我を・・・・・・。薬師の手配を致しましょうか?」

「いえ。そう大した怪我ではありませぬ。それよりも、護符を早く作りたいので、このまま失礼します」
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