妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「まぁ、おほほほ。何と色気のない。殿方が花の枝を送るのは、恋しい女人(にょにん)に送るために決まっているではありませぬか。硬く締まった蕾が花開くように、心を開いて欲しいとか、まぁ、そういった意味ですわ」

 最後のほうで頬を赤らめ、ほたるが言う。
 ぽかんと、阿呆のように口を開けて、彼女の説明を聞く呉羽とは違い、ほたるのほうは、そはや丸のほうへと足を踏み出した。

「あなた様のお気持ちは、わかっておりましてよ」

 ほたるは恥じらいつつもそう言って、そはや丸の胸に手を伸ばす。

「・・・・・・そはや丸? お前、女官殿と知り合いなのか?」

「知らねぇな」

 何となく甘やかな雰囲気漂うそはや丸とほたるの間の空気は、そはや丸の一言で凍り付いた。
 ほたるは、そはや丸のほうに伸ばした手をそのままに、固まっている。

「ほれ。お前もちょっとは花を愛でろ。もうちょっとしたら、花が開くぜ」

 ばさ、と枝を呉羽に渡す。
 その瞬間、ふわ、と僅かに良い香りがし、呉羽も思わず顔を綻ばせた。
 呉羽は単に梅の良い香りに嬉しくなっただけだが、彼女のすぐ後ろでは、右丸が顔を引き攣らせており、ほたるが目を見開いている。

「そだな。梅は剪定しないと、実も上手く付かないしな」

 すっかり機嫌の直った呉羽は、歩き出したそはや丸の後を追いながら、暗くなっている二人を振り返った。

「ああ、折角だから、寄っていけよ。烏丸も、もっと右丸といたいだろうし」
< 16 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop