妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「誤解?」

 右丸が、少し意外そうに呉羽を見る。
 こっくりと頷き、呉羽は、ちらりとそはや丸を見た。
 妙な誤解を解くためにも、もうそはや丸の正体を言ったほうがいいだろう。

「あのな、そもそもこいつが、女官殿に言い寄るはずがないんだ。何と言っても、こいつは・・・・・・」

「お前しか見てないからな」

 『刀だから』と言おうとした呉羽を後ろから抱きしめ、そはや丸が被せるように言った。
 しん、と沈黙が落ちる。

「「・・・・・・っなっ・・・・・・」」

 呉羽と右丸の口が、同時に開いた。

「何を言ってるんだぁ、お前は!」

「何てことを! それほどまでに、呉羽様のことを・・・・・・」

 そはや丸の腕の中で、わたわたと暴れる呉羽とは違い、右丸は打ちひしがれたように、立ち尽くしている。
 呉羽を押さえ込み、そはや丸は、俯いている右丸に顔を向けた。

「おい。とっとと車を動かしやがれ。ただでさえ牛車は、とろくせぇんだよ」

 何事もなかったかのように言い放つそはや丸に、右丸は反抗的な目を向ける。
 が、車の前の御簾を下ろすと、牛を操りだした。

 そはや丸のためではない。
 呉羽のためだ。
 ゆるゆると、牛車は左大臣家を出て行った。
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