妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
 牛車の中で呉羽は、ふぅ、と息をついた。
 気を抜くと、ふっと意識が途切れてしまいそうだ。
 そはや丸が、ち、と小さく舌打ちした。

「とろくせぇ。やっぱ駄目だな」

 言うなり、そはや丸は御簾を跳ね上げた。
 そして、呉羽を抱えたまま、一足飛びに外へ出る。

「な、何をしているのです」

 牛を操りながら歩いていた右丸が、驚いて声をかける。

「そんなとろくせぇ乗り物、乗ってられるかよ。ちんたらしやがって、お前も呉羽が心配なら、もっと速く走らせるぐらい、しやがれってんだ」

「そ、そんな。大体そんな速く走らせたら、呉羽様のお身体に、負担がかかるではありませんか」

 言い返す右丸だったが、そはや丸は、そのまま背を向けた。

「お待ちくださいっ。灯りもなく、どうやって帰るのです。夜盗などに襲われでもしたら、それこそ呉羽様が・・・・・・」

 駆け寄る右丸に、そはや丸は鬱陶しそうな顔を向けた。
 そはや丸に抱かれた呉羽の上に蹲っていた烏丸が、はらはらと二人を見る。

「呉羽呉羽と、うるせぇな。呉羽には、この俺様がついてるんだ。そこのところを、いい加減に理解しやがれ」

 そう言い捨てると、そはや丸は地を蹴って走り出した。
 あっという間に、右丸の前から姿が消える。

 闇が落ちた往来で、右丸の持つ松明だけが、ぱちぱちと小さく辺りを照らしていた。
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