妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「全くお前は。折角送ってくれようという気遣いも、あれでは無に帰してしまうではないか」

 疾走するそはや丸の腕の中で、呉羽が、ぼそ、と呟いた。
 辺りは真っ暗で、何も見えない。
 しかしそはや丸は、迷いなく走っていく。

 景色が見えないので、どの程度の速さなのかはわからないが、身体を嬲る風から察するに、かなり速いようだ。
 確かに牛車よりは、早く帰り着けるだろう。

「あんなモンに付き合ってちゃ、夜が明けちまう。早くしねぇと、お前が辛ぇだろ」

 足を緩めることなく、そはや丸の声が落ちてくる。
 そはや丸の言うとおり、胸の痛みは相当なものだ。
 そはや丸は妖だけに、足音もなく、まさに飛ぶように走っているが、振動が全くないわけではない。
 僅かな振動でも響いてくる。

「・・・・・・もう気ぃ抜いてもいいぜ。あとは俺が面倒見てやる」

 呉羽の症状を察し、そはや丸が言う。
 その声に安心し、呉羽は目を閉じた。

 烏丸が、あ、と慌てて呉羽を起こそうとしたが、そはや丸に睨まれて小さくなった。

「ねぇ、ほたるさんに護符を渡さないといけないんでしょ。どうするの」

「知ったことか。どっちにしろ、呉羽は今、そんな状態じゃない。あんな女官よりも、呉羽のほうが重傷だ」

 ふ、と烏丸は、心の中で笑った。

---全くそはや丸は。ほんとお姉さんのことしか頭にないんだから---

 そして、ちらりと呉羽を覗き込む。
 確かに帰ったところで、護符など作れないだろう。
 すでに呉羽は、意識を手放している。

「まぁそうね・・・・・・。じゃあおいら、ちょっとひとっ飛びして、右丸に知らせてくるね」

 そう言って、烏丸は、ばさ、と飛び立った。
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