妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「無理はなさらず、寝ておいてください」

 右丸は、硯箱を一生懸命引っ張っていた烏丸を制して言った。

「・・・・・・そうか? でもお前も、女官殿のこと、心配だろ?」

「私は、ほたる様のことも心配ですが、呉羽様が妖は祓ってくださいましたし・・・・・・。そ、それに、私は呉羽様のほうが心配なので」

 思い切って言い、右丸は顔を上げた。
 呉羽の視線とぶつかる。
 途端に真っ赤になって、右丸は再び俯いた。

「あっあのっ。その・・・・・・よ、夜道をこれから帰るのも、恐ろしいですし・・・・・・。とりあえず、少し休んでください。お待ちしておりますので、お目覚めになっても無理そうでしたら、また後日来ますので」

 慌てて誤魔化すように言う右丸に、そはや丸が渋い顔になった。

「夜道を帰るのが怖いだぁ? ふん、腰抜けめ。来るときは呉羽が気になって、恐怖など感じなかったってことかい」

「くっ来るときは烏丸がおりましたのでっ」

「だったら烏丸に送ってもらって、今すぐ帰れや」

「・・・・・・っ」

 赤い顔で、右丸はそはや丸を睨む。
 そはや丸の言うことは、的を射ている。
 来るときも、この夜中に葬送の地に踏み込んできたわけだが、そんなことよりも呉羽のことが心配で、恐怖など感じる暇はなかったのだ。

 だが帰りは違う。
 いくら烏丸がいてくれたところで、行きほどの強い思いがないため、その分を恐怖が占める。
 考えただけでも恐ろしい。
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