妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
 己の手を掴んだそはや丸の体温の無さに、冷静さを取り戻す。
 そはや丸に掴まれた手首は、まるで冷水の中に突っ込んだような冷たさだ。

「あ、あなたが暖めると言ったのでは、なかったですか?」

 あまりに不自然な冷たさに、これでは暖めることなど出来ないだろうとは思ったが、右丸はあえて疑問を口にした。
 そもそもこんなことを、そはや丸自らが右丸に頼むこと自体があり得ない。

 が、顔を上げた右丸は、そはや丸の表情に息を呑んだ。
 瞳が、ぎらりと光っている。
 まるで研ぎ澄まされた刃のようだ。

「・・・・・・それが出来れば、お前なんぞに頼まん」

 押し出すように言い、そはや丸は右丸の頭を押して、呉羽の横に身体を倒させた。
 そして、上から単と、右丸のところから持ってきた衾をかける。

「お前が呉羽に出来る事と言えば、それだけだ。ちゃんと暖めろ。呉羽が死んだら、その時点で、てめぇの命はないものと思え」

 初めのように声を荒げるわけでもなく、淡々とした物言いだが、尋常でない気がひしひしと伝わる。
 何の力もない右丸にも感じられるほどだ。

 右丸は困ったが、今のそはや丸には、歯向かったらどうなるかわからない。
 それに。
 
 ちらりと、右丸は目の前の呉羽に目をやった。
 確かに、彼女の容態は思わしくない。
 冷えた身体を暖めるのは素肌同士が一番だと、人は本能で知っている。

 右丸は躊躇いながらも、呉羽に手を伸ばした。
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