妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「礼というなら、このわたくしが、わざわざあなた様の元へと参ったことが、何より価値のあることではありませぬか?」

 最早傍にいる呉羽や右丸の存在など目に入っていないように、ほたるはずいずいと、そはや丸に迫る。
 このそはや丸に、ここまで迫れる女子というのも、なかなか凄い。

 ぽかんと二人を眺めていた呉羽だったが、少し考えて、ちょいちょい、とそはや丸の袖をつついた。

「そはや丸? えっと、どういうことなんだ? お前、この女官殿を媒体に使ったんだろ? それで何か、おかしくなってるのか?」

 呉羽には、そはや丸は刀だという頭があるし、何より色恋沙汰には、とんと疎い。
 今の話が色恋のことだということなど、考えもしないのだ。

 そはや丸は、ほたるに迫られ仰け反りながら、当時の状況を思い出していた。
 そういえば、この女を媒体にするために、何かそのようなことを言ったような。

「そうだな。媒体に使うにゃ、妖気を入れないといかんだろ。そのためには、気を持たせるようなことを言わにゃならん」

「? 何故だ?」

 そはや丸の袖を握ったまま、呉羽は首を傾げる。
 呉羽にとっては、接吻など単なる気のやり取りでしかない。
 故に、接吻するための段階というものは、わからないのだ。
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