妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「お前は主が凍えても良いのかぁっ!」

 呉羽が怒鳴りながら、火鉢を取り返す。
 そんな呉羽に、そはや丸は意地悪く笑いながら覆い被さった。

「そんな寒いなら、主のために、俺自らが暖めてやろうか?」

「わーっ! 馬鹿! お前に引っ付かれたって、暖まるわけないだろうが!! 体温のない刀のくせに、引っ付くな~~っ!!」

 最早恋人同士の甘やかな戯れではない。
 呉羽は必死でそはや丸を押しのける。

 そこへ、ばさばさと羽音を響かせて、黒い影が飛び込んできた。

「ふぃ~、寒いっ。すっかり冷えちゃったよぅ」

 ちょんちょん、と飛び跳ねながら部屋に上がり込んできたのは、大きな烏である。

「あっ烏丸(からすまる)。おいで、一緒に暖まろう」

 呉羽が両手を差し出すと、烏丸と呼ばれた烏は、嬉しそうに呉羽の腕に飛び込んだ。

「お姉さん、何だか高貴なお家からの死体が出たみたいで、結構なお供えがあったよ」

 呉羽に、むぎゅ、と抱かれた烏丸が、ちょい、と羽で簀の子を指して言う。
 簀の子には、饅頭や小袋に入った米が、ばらばらと落ちていた。

 外法師として稼いではいるが、呉羽が相手にするのは、もっぱら庶民で、そう金があるわけではない。
 一応飢えることはないが、それでもこの葬送の地に葬られる人の供え物を頂かねば苦しい。
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