妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「・・・・・・何かあったか」

 呟き、呉羽は右丸を追い越して戻ろうとする。

「み、巫女様? どうしたのです」

「そはや丸の気が昂ぶっている。女官殿が危険だ」

 足早に戻りながら、呉羽が言う。
 そう距離もない。
 呉羽は一番近い妻戸(つまど)を開けると、躊躇無く部屋に踏み込んだ。

「そはや丸!」

 端にある几帳を押しのけて入った呉羽の目に飛び込んできたのは、そはや丸の後ろ姿。
 部屋から出る前と変わらず、前には女官が座っている。

 後から入ってきた右丸には、何ら変わったところのない、普通の光景に見える。
 が、呉羽はそのまま、そはや丸に近づくと、その肩を掴んだ。

「そはや丸。落ち着け」

「・・・・・・巫女様?」

 何をそんなに焦っているのかと、怪訝な表情で呉羽を見た右丸は、烏丸が両目をぎゅっと瞑って、震えながら呉羽にしがみついているのに気づいた。
 今にも泣き出しそうだ。

 どうしたのだろうと思っていると、そはや丸が、ゆっくりと振り向いた。
 呉羽を見上げ、そして、ふ、と息をつく。
 そしてそのまま立ち上がると、部屋を出ていった。
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