妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「なっ何か変化があったのですか!」

 身を乗り出す呉羽に、ほたるは扇の向こうから、冷ややかな視線を返す。

「あのかたに、ああまで迫られて、さすがのわたくしも、もうあれ以来どうにかなってしまったようですわ。このわたくしが、このような穢れた地に出向いたのも、ひとえにそのためですのよ。当たり前でしょう、わたくしは、あなたのような女子とは違うのですから」

 先程ほたるが呉羽を蔑んだときの、そはや丸の怒りが思い出され、悔しさに彼女は思いきり馬鹿にしたように言った。
 が、呉羽は、うんうんと頷く。

「そうでしょうな。このような地に、平気で足を踏み入れる者など、私ぐらいなものでしょう」

 だからこそ、ここに居を構えているのだ。
 ヒトなどよりも、呉羽にとっては妖(あやかし)のほうが付き合いやすい。

 嫌味が通じなかったことで、ほたるはますます不機嫌になった。

「ほんに、わたくしをここまでにしておいて、あのかたは一体どういうおつもりなのか。あなたも、どういうつもりで彼を遣わしたのです?」

「それは・・・・・・確かに、軽率だった・・・・・・かもしれません」

 しょぼんと俯く呉羽に、膝の上で烏丸が気遣わしげな目を向けた。

「まさか女官殿に、このような後遺症を残したまま帰ってくるとは・・・・・・」

 呉羽の言うのは、あくまで『そはや丸が、ほたるを媒体に使ったことで、何らかの影響がほたるに残ってしまった』ことへの反省である。
 はっきり言って、今回のこととは無関係な、ほたるの気持ちなどは、さっぱり理解していない。
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