妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「おお、有り難う。重かっただろう? ご苦労だったな」

 よしよし、と腕の中の烏丸を撫で回す。
 そんな呉羽を、若干呆れの入った目で眺めつつ、そはや丸は簀の子に出て行った。
 烏丸の運んできた供え物を抱えて戻ってくる。

「ふ~む、粟餅か。結構な家の、下働きってところか? 米に小豆・・・・・・おや、酒もある。よくお前、こんなに運んでこられたな」

「重かったよぅ。お酒は引き摺っちゃった」

 品定めをするそはや丸に言う烏丸を、呉羽は、ぎゅっと抱きしめる。

「偉いなぁ。よしよし」

「へ。ほんとに呉羽は、物の怪好きだな」

 馬鹿にしたように言い、そはや丸は粟餅を一つ摘み上げる。
 すかさず呉羽が、そはや丸の手をぴしりと叩いた。

「お前は食うなと言うておろうが」

 ち、と呟き、そはや丸は呉羽を睨む。
 そはや丸は刀であるので、食料など必要ないのだ。

「ねぇねぇ、お姉さん。右丸(うまる)は、どうしてるかなぁ」

 不意に、烏丸が呟いた。
 右丸というのは、左大臣家に仕える牛飼い童(うしかいわらわ)だ。

 以前に祭りを見に、鞍馬の山から下りてきた烏丸は、たまたま居合わせた陰陽師に撃退された。
 命からがら逃げ込んだのが、左大臣家の牛車だったのだ。
 気を見る力のある多子(まさるこ)姫に助けられ、右丸に託された烏丸は、右丸の身体に入り込み、陰陽師の追っ手から逃れ、そのまま身体の中で療養していたのだ。

 そしてその療養中に、呉羽とも会った。
 当時は右丸の身体を共用している状態だったので、呉羽も右丸のことは知っているはずなのだが・・・・・・。
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