妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
 主といえども、それはヒトの社会の身分的なもので、しかもさほどの差はないものではないのか、と言いたいのだろう。
 つまりは、仲の良いお友達なだけであって、特別な関係ではないのだと。

 が、呉羽とそはや丸の関係は、そんな甘っちょろいものではない。
 そはや丸は、生半可な妖刀ではない。
 彼の主になるのは、命懸けなのだ。

 一旦主従の契約を交わしたといっても、いつ何時、そはや丸が牙を剥くかわからない。
 主の命は基本的に絶対だが、あまりにそはや丸の意に沿わないような命令が続くと、そはや丸自身が主に対して牙を剥く。
 危うい均衡の上に成り立つ関係だ。

「・・・・・・仲良し、というには程遠いですが」

 眉間に皺を寄せて、呉羽が言う。
 このような関係を、ヒトに言ったところでわかるまい。

「でも、共に暮らしているのでしょう? 仲が悪くて、このように狭く寂しいところで、一緒に生活できましょうか」

 呉羽はぐるりと部屋の中を見渡した。
 そんな風に言われるほど狭いとも思わないが、ほたるは左大臣家に仕える女官だ。
 左大臣家に比べれば、そりゃあ厩(うまや)程度かもしれないが、呉羽が一人で住む分には、十分過ぎるほどの広さである。

 確かに他に部屋はないが、特に今まで必要もなかったしなぁ、と考えていると、ほたるが部屋の隅に、申し訳程度に置かれている几帳を、じっと見た。
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